「女性版骨太の方針2023」とは、女性を取り巻く課題を解消するために、重点的に取り組む事項や方針をまとめたものです。
「女性版骨太の方針」を参考にすると、政府が取り組む施策や自社が対応すべき事柄の把握につながるでしょう。
この記事では、「女性版骨太の方針2023」がいつから始まるのかや、女性役員比率に係る数値目標などの具体的な内容について解説します。
1|女性版骨太の方針2023とは |
「女性版骨太の方針2023」とは、女性を取り巻く課題を解消し、女性が活躍できたりキャリア形成を支えたりする環境を作るために、重点的に取り組む事項や方針をまとめたものです。
女性を取り巻く課題とは、日本における女性の役員数が国際的に少ないことや、固定的な性別役割分担意識で、キャリアとライフイベントの二者択一を女性ばかりが迫られ、出産などによって女性が非正規雇用化することが挙げられます。
「女性版骨太の方針」は、毎年6月頃、政府が当該年度と翌年度に重点的に取り組む事項として決定しており、「女性版骨太の方針2023」は、令和5年(2023年)6月13日に定められました。
「女性版骨太の方針2023」では、次の4つの重点事項について具体策がまとめられています。
①女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組の推進 |
本記事では、①②④の具体策についてご紹介しています。
「③女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」に関しては、「配偶者等からの暴力への対策の強化」や「性犯罪・性暴力対策の強化」「生涯にわたる健康への支援」などについてまとめられています。
参考:内閣府「共同参画」
参考:内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)」
2|女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組の推進 |
「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組の推進」では、男女ともに個性と能力を最大限発揮できることがイノベーションの創出による企業の持続的な成長を招き、日本経済も発展するため、女性の経済的自立の実現が重要としています。
具体的な取り組み策は、3つです。
・企業における女性登用の加速化 |
それぞれの内容を紹介します。
参考:内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)」
2-1.企業における女性登用の加速化 |
日本企業における女性役員比率が諸外国と比べて低く、国内外の投資家が女性役員比率を重視する傾向が高まっているため、日本の女性登用を加速化させることを課題としています。
課題解決の取り組みとして、次の4つを掲げています。
①プライム市場上場企業を対象とした女性役員比率に係る数値目標の設定等 |
プライム市場上場企業の女性役員比率の数値目標を設定し、女性役員比率を上げるため、令和5年(2023年)中に取引所の規則に次の内容の規定を設ける取り組みです。
・2025 年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める |
「女性リーダー研修の更なる充実」と「リスキリングによる能力向上支援」「企業による多様な人材が登用される環境づくりの推進」の3つがあります。
女性リーダー人材の育成を目的とした研修を拡充したり、リスキリングの分野の拡充を検討したりするほか、女性がリーダーを目指せると思える環境をつくれるように、ロールモデルの提示を進めていきます。
リスキリングについて詳しくまとめた記事はこちら |
企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためには、女性を含め、取締役会などの多様性を向上させなければならず、投資家と企業の建設的な対話の促進が重要です。
そのため、年金等のアセットオーナー(金融機関や財団等、資産を保有する組織)における体制拡充等のスチュワードシップ(受託責任)活動の実質化に向けた課題解決に向け、運用機関・アセットオーナー等による取り組みを促進します。
プライム市場上場企業が設定した女性役員比率の数値目標の状況を踏まえ、令和5年(2023年)中に、5次計画における令和7年(2025年)までのプライム市場上場企業の役員全体に占める女性割合に関する成果目標を策定します。
2-2.女性起業家の育成・支援 |
令和4年(2022年)11月に「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、国がスタートアップ育成に取り組んでいます。
女性起業家によるイノベーション創出が進むように、女性視点の起業支援を行うことや、起業のためのエコシステムの整備が求められています。
支援内容は次の2つです。
①段階ごとの課題に対する有機的な女性起業家への支援 |
「ロールモデルとなる女性起業家の創出、育成支援 」「女性起業家のためのネットワーク等の充実 」「女性起業家による資金調達への支援 」の3つあります。
選定された企業を政府と民間が集中支援するプログラムにおいて、女性起業家の割合を20%以上とすることや、女性起業家支援機関のスキルの見える化や地域ごとの支援拡充などを行い、女性起業家が活用しやすい仕組みを目指します。また、女性起業家のためのイベントも開催します。
「女性、若者/シニア起業家支援資金」による資金調達支援も実施して、女性の起業を後押しします。
女性起業家特有のニーズや悩みに寄り添うため、エコシステム全体におけるジェンダー多様性を向上させることが重要です。エコシステムの実態を捉えた定量データが不足しているため、アンケート調査を実施し、対外発信します。
2-3.地方・中小企業における女性活躍の促進 |
日本企業の9割以上、雇用の約7割を占めているのが中小企業であるため、女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて、中小企業に必要な施策を講じていくことを示しています。
①中小企業向け補助金における優遇による両立支援に向けた取組 |
女性活躍や子育て支援に取り組む企業を採択審査で加点するという優遇措置を、ほかの補助金にも広げていき、中小企業を後押しします。
中小企業の女性活躍が進まない要因としてアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が挙げられるため、解消して行動変容を促すように、研修用のコンテンツの開発や普及に取り組みます。
中小企業に女性経営者が増えた場合、女性従業員が継続して働きやすくなったり活躍できたりします。そのため、大企業から中小企業へ、副業や出向などのさまざまな形態での流出で経営人材確保を支援する「地域企業経営人材マッチング促進事業」の周知広報を実施します。
女性活躍の要素を重視した取引先の選定など、社会全体で女性活躍を促し合う取り組みの普及や拡大を図ります。
また、「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」では、女性役員や女性経営者が登壇する地域シンポジウムを全国で開催し、ネットワークの形成や好事例の横展開を進めます。
3|女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の強化 |
企業の労働慣行の見直しや、家事育児等の無償労働が女性に偏っていることなど、男女ともにライフイベントとキャリア形成を両立するための課題を解消するとともに、女性の就業継続を支援することを重要としています。
また、女性のデジタル人材育成のためリスキリング環境の整備や、ひとり親家庭支援などの取り組みを進めていきます。
取り組み内容は次の6つです。
①男女がともにライフイベントとキャリア形成を両立する上での諸課題の解消 |
参考:内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)」
3-1.男女がともにライフイベントとキャリア形成を両立する上での諸課題の解消 |
大きくわけると、次の3つの取り組みを示しています。
・企業の労働慣行の見直し |
企業の労働慣行の見直しでは、「平時からの多様で柔軟な働き方の推進」「育児期における休暇取得や柔軟な働き方の推進」「仕事と介護の両立に関する課題への取組」の3つの項目が挙げられています。
それぞれの内容を表にまとめました。
①平時からの多様で柔軟な働き方の推進 | 長時間労働慣行の是正 |
企業における働き方改革推進のために、法制度の周知徹底や必要な支援を実施する |
労働者に対する就業場所・業務の変更の範囲の明示 |
転勤や業務の変更はワークライフバランス等を左右するため、すべての労働契約締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに「雇い入れ直後」の就業場所・業務内容と「変更の範囲」について明示を求める(※令和6年(2025年)4月より施行) |
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投資家の評価を利用した両立支援の取組の加速 |
「なでしこ銘柄」の調査項目に「産休・育休から復帰後3年時の女性の就業継続率」等の両立支援に関する設問を追加し、両立支援や子育て支援の取り組みを促す |
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多様な正社員制度の普及促進、選択的週休3日制の導入促進等 |
企業が雇用管理上の課題を分析し、多様な正社員制度等を選択できるように「課題分析ツール」の作成を行う また、非正規雇用労働者の正規化を進める企業への支援強化や、選択的週休3日制の導入を促進する |
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勤務間インターバル制度の導入支援 |
勤務間インターバル制度の導入を支援するほか、制度導入による効果を把握し、発信する等、効果的な周知を検討する |
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②育児期における休暇取得や柔軟な働き方の推進 | 男性の育児休業取得の促進 |
「男性育休は当たり前」になる社会の実現に向け、制度面と給付面の両面からの対応を抜本的に強化する |
育児期を通じた柔軟な働き方の推進 |
育児・介護休業法において子供が3歳以降小学校就学前までの場合、短時間勤務等の柔軟な働き方を職場に導入する制度を検討する 「子の看護休暇」の対象となる子供の年齢や休暇取得自由の範囲などを検討する |
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③仕事と介護の両立に関する課題への取組 | - |
仕事と介護の両立支援制度の情報提供や、医療保険者等による介護保険制度の周知について検討する |
なでしこ銘柄について詳しくまとめた記事はこちら |
「ベビーシッター利用の普及に向けた施策の推進 」と「家事支援サービス利用の普及に向けた施策の充実」の2つがあり、ベビーシッターの保育の質の確保や向上に取り組むことや、家事支援サービス提供事業者の認証制度と企業の福利厚生としてのサービス提供の検討を進めています。
この項目で示されているのは、「女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討」「固定的な性別役割分担意識やアンコンシャス・バイアスの解消 」「個々の女性労働者のキャリア形成支援 」の3つです。
106万円・130万円の壁を意識せずに働けるように、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や、最低賃金の引き上げに取り組みます。また、アンコンシャス・バイアスを解消するため、管理職や経営層の意識改革をするほか、学校等の教育現場でも教材や資料を配布します。
女性のキャリア形成支援としては、メンター制度の導入やロールモデルの育成などに関するマニュアルや事例集を作成します。
3-2.男女間賃金格差の開示に伴う更なる対応 |
常時雇用労働者が301人以上の企業における情報公表を推進し、課題の分析と結果を踏まえた格差の是正に向けた取り組みを支援します。
公表された男女間の賃金の差異について、一覧性や検索性を確保したサイトの整備を通じ、さらなる「見える化」を図ります。
3-3.非正規雇用労働者の正規化及び処遇改善等 |
この項目では、「非正規雇用労働者の正規化」「非正規雇用労働者の処遇改善」「多様な働き方に応じた各種制度の構築 」の3つが挙げられています。
①非正規雇用労働者の正規化 | 企業による正規化の促進 |
非正規雇用労働者の正規化を進める事業主に対する助成金の拡充や、多様な正社員への転換支援を強化する |
女性非正規雇用労働者等のリスキリングの促進 |
企業が雇用形態を問わず教育訓練を実施できるように支援したり、リスキリングを行う労働者個人への支援を拡充したりする |
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②非正規雇用労働者の処遇改善 | 同一労働同一賃金の遵守の徹底 |
労働基準監督署および労働局による企業への一層の働きかけを行なったり、労働局における指導機能の強化を図ったりする |
行政機関で働く非常勤職員の処遇改善 |
地方公共団体の業務において重要な役割を果たしている非常勤職員に対し、勤勉手当の支給を可能とする「地方自治法の一部を改正する法律」の施行に向けての助言を行う(※令和6年(2025年)4月施行) |
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③多様な働き方に応じた各種制度の構築 | - |
有期雇用労働者の育児休業制度の活用を促進する また、雇用保険が適用されていない労働者も育児休業給付等を受給できることや、第1号被保険者の育児期間に関わる保険料免除措置を創設することの検討を進める |
3-4.女性デジタル人材の育成等 |
女性デジタル人材の育成等として「女性デジタル人材育成に資するデジタルスキル標準等の活用促進 」「多様化する就労形態に関する知識向上を目的とした地方公共団体による取組の支援 」「「女性デジタル人材育成プラン」の実行 」の3つが挙げられています。
デジタルスキル標準(DXに関する知識やスキルを身につけるための指針)を活用した女性デジタル人材の育成や、多様な就労形態に関する知識向上のための地方公共団体によるセミナー等を、地域女性活躍推進交付金を通じて支援します。
また、「女性デジタル人材育成プラン」に基づき、デジタルスキルの習得やデジタル分野への就労の支援を2022年度から2024年度末まで集中的に推進します。
3-5.地域のニーズに応じた取組の推進 |
この項目で挙げられているのは、「独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)及び男女共同参画センターの機能強化」「地方公共団体の取組への支援 」「男性相談の充実 」の3つです。
「独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)及び男女共同参画センターの機能強化に関するワーキング・グループ報告書」の施策や取り組みについて令和5年度(2023年度)より実施できるものから実施していきます。
また、地方公共団体に対し、男性の望まない孤独や孤立を解消するために、地域女性活躍推進交付金を活用して相談体制を整備するなどの、相談支援の充実を促します。
3-6.ひとり親家庭支援 |
「ひとり親家庭支援」では、「養育費の確保」と「職業訓練の充実」が挙げられています。
2031年に、養育費の取り決めの有無にかかわらない全体の受領率を40%、取り決めをしている受領率を70%とすることを目指します。目標を達成するために、離婚の際に養育費を支払うことは当然のことであるという意識改革を強化したり、相談機会を増やしたりします。
また、看護師や介護福祉士等の資格取得を目指すひとり親に対する高等職業訓練促進給付金についての周知広報に努め、利用促進を図るほか、対象資格の拡大を検討します。
4|女性の登用目標達成 |
第5次男女共同参画基本計画の目標を達成するため、進捗状況を確認しながらPDCAを回し、必要な施策を行います。女性の登用・採用に関する全58の項目のうち、達成状況が遅れている項目についてはさらに取り組みを加速させていきます。
ここで示されているのは、次の8つです。
①5次計画の中間年フォローアップ |
⑥は農業委員等や教育委員会等における女性割合の向上や農林水産業における女性活躍の推進が示されています。⑦では、防災の意思決定の場への女性登用の加速や、防災現場等における女性の参画拡大について、⑧では、在外公館の女性割合の増加等について触れられています。
①から⑤については以下で紹介します。
参考:内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)」
4-1.5次計画の中間年フォローアップ |
令和5年(2023年)が5次計画の中間年にあたるため、成果目標の着実な達成に向けて進捗状況を把握し、残りの期間で取り組むべき事項の検討を行います。
4-2.政治分野 |
女性議員の比率が上昇している地方議会の事例について、要因や具体的な取り組み等を調査・分析し、結果について広く情報提供します。
また、多様な人材が議会へ参画できるように環境整備を図るため、議会にデジタル技術を活用した取り組みに関して助言を行うなど、先進事例の情報提供をします。
4-3.行政分野 |
令和6年度(2024年度)から、各府省共通の勤務時間管理システムの整備を進め、テレワークのさらなる浸透と定着を図ります。
また、各府省がフレックスタイム制を積極的に活用し、職員個人の働き方の柔軟性を図るために、人事院においてフレックスタイム制を検討し、対応します。
4-4.経済分野 |
全国の商工会および商工会議所における役員の種別ごとの女性割合を継続して「見える化」します。また、女性割合を増加させるために取り組んでいる商工会等を把握し、取り組みの継続を図ります。
4-5.科学技術・学術分野 |
「科学技術・学術分野」では、「女性が少ない分野への進学者増に向けた取組の推進 」と「科学技術・学術分野における女性登用の促進 」が挙げられています。
女子中高生へ理系分野に対する興味関心を喚起したり、教員と保護者へ女子の理系進路選択に関する理解を促進したりなど、理系分野への進路選択支援を行なっている大学等を引き続き支援します。また、ロールモデルによる出前授業を実施して、女子の理系選択者増を目指します。
女性管理職の登用拡大に向け、大学ガバナンスコードの見直しや学部ごとの女子学生・女性教員の在籍や登用状況などの情報開示の促進を図るほか、ダイバーシティ実現に向けた大学等の取り組みを支援します。
5|まとめ |
「女性版骨太の方針」は、女性を取り巻く課題を解消するために重点的に取り組む事項として毎年6月頃に定められます。「女性版骨太の方針2023」は令和5年(2023年)6月13日に定められ、女性活躍や所得向上など4つの事項について具体策がまとめられています。
「2030年までに女性役員比率を30%以上とする」などの具体的な数値目標が設定されている項目もあるため、企業は、女性が活躍できる職場環境を構築したり、アンコンシャス・バイアスを解消したりすることが大切です。
「女性版骨太の方針2023」を参考にして、男女ともに活躍できる職場環境を目指していきましょう。
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