従来、給与は現金、もしくは銀行振り込みで就業者に支払われていましたが、2023年4月からデジタル給与が解禁されます。
デジタル給与とは、電子マネーや決済アプリとして使えるように支払われる給与のことを指しますが、どのような仕組みなのか、導入するメリットがあるのかなど気にされている企業様もいるでしょう。
この記事では、デジタル給与の仕組みや課題や懸念点、メリットとデメリットについてまとめているので、ぜひご参考にしてください。
この記事で分かる事 |
・デジタル給与とは? ・デジタル給与の仕組み ・デジタル給与を導入するメリット、デメリット |
1.デジタル給与とは? |
デジタル給与とは、給与を現金や銀行口座への振り込みで支払う従来の方法ではなく、「〇〇Pay」などのスマートフォンの決済アプリや電子マネーとして支払えるようにする、厚生労働省が進めている制度です。
労働基準法第24条の「賃金の支払い」では、賃金は通貨で直接労働者に支払うこととされていますが、労働協約などで定められている場合は通貨以外のものでの支払いも可能という旨が記されています。そのため、多くの企業様が行なっている可能性が高い銀行振り込みも法律と照らし合わせると例外であり、デジタルマネーでの支払いも法律に則れば問題ないといえるでしょう。
ただし、仮想通貨や現金化できないポイントでの支払いはデジタル給与として認められていない点に注意が必要です。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払について -厚生労働省資料P4-
経済産業省の調査によると、キャッシュレス決済比率は2019年26.8%、2020年29.7%、2021年32.5%で年々上昇傾向にあるため、デジタル給与の支払いが可能となった場合、さらにキャッシュレス化が進むかもしれません。
参考:2021年のキャッシュレス決済比率を算出しました -経済産業省-
2.デジタル給与を厚生労働省が進める理由・方針 |
デジタル給与を厚生労働省が進める理由や方針についてまとめました。
(1)デジタル給与を厚生労働省が進める理由
デジタル給与を厚生労働省が進める理由は、次の4つです。
デジタル給与を進める理由
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厚生労働省がデジタル給与を進める理由について、それぞれ解説します。
デジタル給与のニーズの高さ
厚生労働省は、デジタル給与についての調査で下記のような結果を公表しています。
デジタル給与を「利用したい」26.9%、「利用したくない」40.7%という回答があり、デジタル給与は約4分の1の方にニーズがあることが分かります。
また、給与をデジタルマネーとして受け取る割合については、下記のような結果です。
給与のうち「1割~3割程度」をデジタルマネーにしたいと答えた割合が35.2%と最も高く、給与の一部をデジタル給与として受け取りたい方が多いといえるでしょう。
デジタル給与へのニーズが高い理由は、前述したように年々キャッシュレス決済比率が高まっていることが考えられます。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払について-厚生労働省資料P40-
銀行と資金移動業者間の競争への好影響
デジタル給与が普及した場合、就業者のなかにはQRコード支払いを行うような決済アプリ等に給与を振り込み指定する方もいるでしょう。
すると、コード決済サービスを行なっている銀行とノンバンクのコード決済事業者の対等な競争が生じると考えられるため、事業者間の競争が加速し好影響を与えるかもしれません。
キャッシュレス社会の実現
日本と世界のキャッシュレス比率は、下記のとおりです。
参考:キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性 -経済産業省資料P2-
日本は、世界と比較するとキャッシュレス比率が低いため、2025年6月までにキャッシュレス比率を4割程度とすることを目指しています。
将来的には世界最高水準の80%も目指しており、キャッシュレス社会の実現に向けた取り組みのひとつとして、デジタル給与制度を進めているでしょう。
外国人材の受け入れ促進
企業様の多くが給与を銀行振り込みにしていると思いますが、外国人材を受け入れる場合は、外国人材が銀行口座を開設するなど、給与を支払うための取り組みが必要となります。
一方でデジタル給与の場合は、決済アプリに給与の支払いが可能となり、外国人材に銀行口座の開設を求めることなくスムーズな手続きができるため、外国人材の受け入れ促進にもつながると考えられます。
(2)厚生労働省の方針
厚生労働省はデジタル給与制度を進めていますが、デジタルマネーとして給与を支払うには就業者の同意が必要であり、デジタル給与一択にしないように決められています。
また、すべての資金移動業者がデジタル給与先として認められるわけではなく、厚生労働省が定めた7つの要件をすべて満たす必要があり、要件を満たさなくなった事業者は指定を取り消される可能性があります。
資金移動業者の要件
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参考:資金移動業者の口座への賃金支払について-厚生労働省資料P2-
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3.デジタル給与解禁はいつから? |
厚生労働省が推進しているデジタル給与制度は、2023年4月に施行され、就業者の同意がある場合にデジタル給与として支払われるようになります。
しかし、デジタルマネーの事業者は厚生労働省の定めた要件を満たし、指定を受けなければならないため、実際にデジタル給与の振り込みがされるのは制度施行から数か月後となるかもしれません。
4.デジタル給与の仕組み |
デジタル給与の仕組みを、従来の銀行振り込みの給与支払い方法と比較してまとめました。
銀行振り込み | デジタル給与 | |
給与振り込みに必要な情報 | 口座情報 | 電子マネーなどのID情報 |
銀行口座の有無 | 有 | 有(上限100万円を超えた際に銀行口座へ移動させるため) |
換金方法 ※各金融機関や事業者によって異なる場合がある |
・銀行窓口での受け取り ・ATMでの引き出し |
・提携先店舗での受け取り ・銀行口座へ資金移動後、ATMや窓口で引き出し |
換金手数料 | 無料~一定額 | 無料~一定額 |
銀行振り込みの場合、振り込みのデータによって給与支払いが可能です。一方で、デジタル給与の場合は、資金移動業者とそれぞれ連携するのではなく、間にデジタル給与支払いのためのサービスやシステムを導入するほうがスムーズな給与支払いができるかもしれません。
また、銀行が免許制であるのに対し、資金移動業者は登録制と認可制の3種に分かれ、それぞれ送金の上限額が異なります。
第1種(高額類型) | 第2種(現行類型) | 第3種(少額類型) | |
許認可等 | 認可制 | 登録制 | 登録制 |
利用者資金の滞留 | 原則不可(送金額、送金日、送金先が明確な場合は受け入れ後ただちに送金) | 可能(※受入額が100万円超の場合は、送金と関係のない資金を滞留させない体制を整備する) | 可能(※受入上限額5万円以下) |
利用者資金の保全方法 | 供託、保証、信託で全額保全(営業日ごとに必要額を算定し、2営業日以内に保全) | 供託、保証、信託で全額保全(週に1回以上必要額を算定し、3営業日以内に保全) | 預金管理もしくは供託、保証、信託で全額保全(週に1回以上必要額を算定し、3営業日以内に保全) |
不正利用時 | 不正利用が行われた場合の損失補償方針を利用者に情報提供 |
厚生労働省は、資金移動業者ごとに規制をかけ、資金の保全性を高めているといえます。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払について -厚生労働省資料-
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5.企業のデジタル給与に対する意見 |
株式会社Works Human Intelligenceの調査によると、デジタル給与を利用予定の企業様は0.4%で、利用予定がない企業様は72.9%でした。
利用する企業様の目的は「銀行振込手数料の削減」や「第2口座等と同様な従業員への便益」が挙げられている一方で、システムの投資コストや担当者の対応工数の増加などの障壁を感じている企業様もいます。
参考:給与デジタル払い解禁はいつから?2022年最新情報やメリットとは
デジタル給与の実施に関しては、システムの導入や資金移動業者の信頼性への懸念など、企業様側の対応や検討材料が多くあるため、難しさを感じている企業様が多いでしょう。
6.就業者のデジタル給与に対する意見 |
株式会社NEXER(ネクサー)が運営する日本トレンドリサーチの調査によると、デジタル給与に反対の就業者は40.9%、賛成の就業者は22.1%で、反対意見のほうが多いことが分かりました。
30代以下の若い世代ほど賛成の割合が高く、年代が上がるごとに反対の割合が多くなっています。
賛成意見では「電子マネーへのチャージの手間が省ける」ことや「給与振り込みの選択肢が増えることはいい」などが挙げられています。一方で、反対意見では「システムエラーなどのリスク」や「安全性の担保」など、安全面を危惧する声があります。
参考:【給与の「デジタル払い」】給与を受け取っている方の40.9%が「反対」
日常生活において、アプリによる電子決済が主な方、現金払いが主な方など、就業者によって給与の使い方はさまざまです。
そのため、デジタル給与の解禁後も、デジタル給与を就業者に強制しないように定められていると考えられます。
7.デジタル給与における課題と懸念点 |
デジタル給与に肯定的な意見がある一方で、課題や懸念点も存在します。
資金移動業者の破綻時や不正利用時の補償は、供託額や各事業者によるため明確に定められていなかったり、払戻しにかかる日数が長期にわたったりします。
銀行振り込み | デジタル給与 | |
破綻時の払戻し | 1金融機関ごと貯金者一人あたり、元本1000万円までと破綻日までの利息 | 供託等によって保全されている資産からの弁済(供託額によっては按分額しか受け取れない場合がある) |
払戻しまでの期間 | 準備が整い次第、数日のうちに速やかな払戻しが可能 | 半年程度 |
不正払戻し時の補償要件や割合 | 預金者保護法や全国銀行協会の申し合わせによって定められている | 無過失の場合は全額補償だが、それ以外は各事業者による |
また、個人情報保護や不正引き出しなどのセキュリティに関して、銀行と同じような対策がとられているのかという懸念があり、資金移動業者の安全性が問われている現状です。
資金移動業者に限らず、就業者が企業にデジタル給与を強制されないか、デジタル給与の振込額の変更時などに企業、就業者双方の負担とならないルールが必要ではないかなど、労使間に関する懸念や課題もあります。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払について -厚生労働省資料-
8.デジタル給与を導入するメリット |
デジタル給与の導入によって発生する、企業様のメリットをご紹介します。
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(1)外国人労働者の受け入れ増加
デジタル給与を導入することで、銀行口座の開設がしづらい外国人労働者にも給与を支払えるため、外国人労働者の受け入れ増加につながる可能性があります。
しかし、電子マネーなどの残高の上限は100万円で、超過分を移動させる銀行口座を開設し、紐づけする必要があるため、口座開設の援助などの対応が求められるでしょう。
(2)振込手数料のコスト削減
資金移動業者の振込手数料は、銀行の振込手数料よりも安いケースが多いです。
そのため、従業員の給与を銀行に振り込むよりもデジタル給与として支払う方が、振込手数料のコストを削減できる可能性があります。
(3)従業員満足度の向上
デジタル給与は、就業者からの一定のニーズがあるといえるため、デジタル給与を給与の支払い方法として導入することで、従業員満足度を向上させられるかもしれません。
キャッシュレス決済を主な購買方法としている従業員の場合、電子マネーなどに給与が振り込まれれば、ATMから現金を引き出してチャージする手間がなくなり、生活の利便性が向上するでしょう。
従業員の満足度の向上は、企業イメージの向上にもつながるため、採用の面で人材確保がしやすくなるなど社会的評価を得られる可能性があります。
9.デジタル給与を導入するデメリット |
デジタル給与にはメリットのみでなくデメリットもあるため、メリットとデメリットの両方を把握して導入を検討されることをオススメします。
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(1)運用コストや従業員の負担増
銀行口座への振り込み、もしくは現金で給与支払いをしていた企業様は、デジタル給与支払いのためのシステム構築や導入が必要になるため、システムに関するコストや運用する従業員の負担が増加する恐れがあります。
また、デジタル給与支払いのためにID情報などの個人情報も必要となるため、漏洩や紛失をしないような対策が必要です。
デジタル給与を導入しても、利用する従業員が少数もしくはいない場合、導入にかかったコストが活かせなかったり、前述したメリットを得られなかったりするでしょう。
(2)不正利用のリスクがある
デジタル給与の支払先として指定される資金移動業者は、銀行と比較してセキュリティや不正利用時の補償面で不安があるといえます。
電子マネーや決済アプリなどはインターネットを利用しているため、例えばフィッシング詐欺でIDなどの情報を盗まれた場合、資金を不正に引き出される恐れがあるでしょう。
デジタル給与の安全面は懸念点としても挙げられているため、不安を抱く従業員が多いかもしれません。
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